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東京高等裁判所 平成8年(う)1594号 判決 1997年8月04日

本店所在地

千葉県市原市平田五六一番地一

株式会社カワイ住宅

(右代表者代表取締役 川井清雅)

本籍

千葉県市原市馬立二〇〇八番地二〇

住居

同市西広四六〇番地

会社役員

川井清雅

昭和二五年五月二四日生

右株式会社カワイ住宅に対する法人税法違反、右川井清雅に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件について、平成八年五月九日千葉地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官増田暢也出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人株式会社カワイ住宅を罰金三六〇〇万円に処する。

被告人川井清雅を懲役一年一〇月及び罰金七〇〇〇万円に処する。

被告人川井清雅に対し、原審における未決勾留日数中四〇日を右懲役刑に算入する。

被告人川井清雅においてその罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人秋山泰雄及び同上出勝連名の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官小高雅夫作成の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

そこで原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。

第一法人税法違反事実(原判示罪となるべき事実の第一)関係

一  被告人株式会社カワイ住宅から千葉瓦斯株式会社への千葉市若葉区加曽利町六九〇番一ないし三及び同町六九一番の各土地の譲渡による五億二八四〇万円の収益の存否について

(論旨)

千葉瓦斯株式会社(以下、「千葉瓦斯」という。)に対する千葉市若葉区加曽利町六九〇番一ないし三及び同町六九一番の各土地(以下、「本件土地」という。)の譲渡代金に関する益金には被告会社に帰属するとは認められないものがある。すなわち、原判決は、被告人株式会社カワイ住宅(以下、「被告会社」という。)の千葉瓦斯に対する商品売上高として、金五億二八四〇万円を計上しているが、そのうち、金一億五二四〇万二〇〇〇円は本件土地の登記簿上の所有名義人である田野清の相続人らがその売買代金として取得したもの、そのうちの金二億四〇一七万六九五七円は本件土地上に建築されていた北島喜美子所有建物(以下、「北島居宅」という。)の所有権及びその敷地に対する借地権を有していた田口稔昌(以下、「田口」という。)及び川井源一がこれらの譲渡代金として取得したものであるから、被告会社の売上高はこれらを除外した残額である金一億三五八二万一〇四三円である。しかるに原判決が、被告会社は課税事実上千葉瓦斯に対し本件土地を五億二八四〇万円で譲渡したものと判示したのは、法人税法二二条一項を無視した上、同法一一条の要件の充足につき何ら説示するところがないまま、課税事実上という何ら法令上の根拠のない内容不明の論理によって収益の帰属を認定するものであり、憲法八四条の定める租税法律主義にも反する不当、違法なものであり、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認及び法令の解釈適用の誤り並びに理由不備及び理由齟齬がある。

(当裁判所の判断)

原判決挙示の関係証拠によれば、原判決が争点に対する判断の項第二の一の1、2で認定した諸事実及び同二の1で判断したところは、後記4で指摘した点を除いて、いずれも正当であり、当審における事実取調べの結果によっても右判断は左右されず、原判決に所論指摘のような事実誤認、法令の解釈適用の誤り、理由不備、理由齟齬はないというべきである。以下、所論にかんがみ説明を付加しておく。

1 所論は、被告会社の代表取締役である被告人川井清雅(以下、「被告人」という。)は、本件土地上に存した北島建設工業株式会社の事務所用建物(以下、「北島事務所」という。)の買受けを申し出る時点においては、右事務所を被告会社の事務所として使用することを考えていたのであるから、原判決が右事務所の取得は当初から本件土地全体を買い上げることを目的とするものであったと判示するのは不当であると主張する。

しかしながら、関係証拠によれば、被告人は、橋本巌(以下、「橋本」という。)から、まず北島事務所次いで北島居宅につき短期間のうちに購入を勧められていること、被告会社が北島事務所の買受申出をした昭和六三年一二月五日からそれほど経っていない同月二〇日に被告人自ら現金を持参して北島居宅に対する抵当権の被担保債権を弁済して抵当権を抹消し、同月二三日に北島居宅につき田口等の名義に所有権移転登記が行われていること、被告人は平成元年一月中旬ころ本件土地について、不動産業者である三愛不動産株式会社代表取締役高橋忠雄に対し、北島事務所を競落し、底地もまとめて売ろうと思っている旨述べ、同月下旬ころには橋本も交えて買主の斡旋を依頼していること、被告会社は、同年二月ころ、ホームリロケーションなる建築関係業者から、本件土地買受けに関する申込証拠金として一〇〇〇万円を受領したことがあることなどが認められ、これらの事実からすると、被告人は、当初から橋本の協力を得て、まず北島事務所を競落し、次いで北島居宅を取得することにより、最終的に本件土地全体の地上げを完成させて、更地として本件土地全体を転売することにより高額な利益を上げようとして橋本をその任に当たらせたことは明らかであり、これに沿う橋本の検察官調書(甲第五八号証)の内容は十分に信用することができる。

被告人は、検察官調書(乙第八号証)、原審公判廷及び当審で取り調べた陳述書において、北島事務所買受けの時点においては、これを被告会社の事務所として使用することを考えていた旨供述し、証人田口も原審公判廷において同旨の供述をしているが、取得した事務所を使用することもなく取り壊した上、本件土地が売却されていること、多額の資金負担をかけて本件土地全体の底地を取得し転売したことからすると、右各供述は不自然であり、信用することはできない。

2 所論は、北島居宅は田口及び川井源一(以下、「田口等」という。)の居住用建物として田口等が買い受けたものであり、その取得資金として田口等が所有していた市原市西五所所在の土地建物を売却して得た資金を充てたのであるから、原判決が被告人が本件土地全体を買い上げる目的で北島居宅を取得したと判示するのは不当であると主張する。

しかしながら、前記のように被告人は当初から被告会社において本件土地の転売を行うことを企図していたと認められるのであるから、その計画を進めている最中に、田口等がその住居として使用するため北島居宅を購入するというのは極めて不自然である。被告人は、原審公判廷及び前記陳述書において、田口等に居住させる目的で北島居宅を取得した旨供述し、証人田口も原審公判廷で同旨の供述をしているが、取得した北島居宅に田口等が居住することもなく取り壊されて本件土地が売却されていること、売却代金目当てではなく、居住を目的としていたものであれば、多額の資金を要する底地買収工作を行う必要はないことからして、右各供述は信用することができない。また田口は、原審公判廷において、北島居宅取得時や資金の手当てなどについて具体的状況を述べることができず、極めて曖昧な内容の証言に終始している。これに対し、被告人は、捜査段階で、一貫して北島居宅は田口等の名義を借用して被告会社で購入し、売買契約書の買い主欄の田口等の氏名を被告人が記載した旨供述しており(所論は、被告人は乙第八号証の検察官調書において、田口等を居住させる目的があったと供述しているとするが、その供述の直後に、「結局その後すぐに橋本からの話で相続人の遺産協議を取りまとめて底地を売却しようということになりました」との供述になっている。)、田口も、検察官調書(甲第六七号証)において、北島居宅に関する取引には一切関与しておらず、その売買契約書の買い主欄の田口等の住所、氏名は自分らの筆跡ではなく、被告人の筆跡と思われるし、その売買代金一九〇〇万円を個人として払ったこともない旨明確に供述している。所論は、被告会社による北島居宅取得資金の出所が検察官によって立証されていないと主張し、確かに被告人の検察官調書(乙第八号証)でもこの点は明確に述べられておらず、その他の証拠上でも具体的な出所を明らかにするものはないが、事態の推移が右のようなものであることに照らすと、この点は被告会社が取得したと認定することに影響を及ぼすものではない。

3 所論は、被告会社が千葉瓦斯に対し本件土地を譲渡したものとした原判決は事実を誤認し、法令の解釈適用を誤っていると主張する。しかしながら、本件土地の売主が被告会社であり、被告会社と千葉瓦斯との間の本件不動産取引が土地建物の取引ではなく、本件土地のみの取引であることは、(1)被告人が、平成元年一月ころから、本件土地につき不動産仲介業者を通ずるなどして売却対象物件としていること、(2)買受け予定者である千葉瓦斯との売買交渉では、被告会社が売主の立場で、本件土地を一体として更地として取引することが前提とされ、実際に北島事務所及び北島居宅を撤去した上、更地として引渡していること、(3)売買代金額の算定が一坪当たりの単価を一三〇万円という本件土地の単位面積当たりの価額で決定されていること、(4)千葉瓦斯を買受人とする交渉、証拠金授受、代金決済等は被告人及び橋本が当たり、本件土地売却に要する諸費用の資金は被告会社から拠出されていること、(5)本件土地を処分するにつき、本件土地の所有者であった相続人らと橋本との間では、本件土地を含めた相続物件の一括譲渡とそれに応じた処分価額が事前に了解合意されており、本件土地及びその他の土地のその後の処分方法については右相続人らは一切関与することがなく、その後の処分、利益の帰属は被告会社及び橋本の計算と判断により決定されていること、(6)本件土地売買に関する売主側の不動産業者である三愛不動産株式会社に対する仲介手数料はすべて被告会社が支払っていること、(7)本件土地の縄延び分の清算金はすべて被告会社が受領していること、(8)北島事務所及び北島居宅の形式上の売主である株式会社大東食品が単なるダミーに過ぎないことなどの諸事実、更には本件取引に関係した不動産業者、千葉瓦斯の担当者及び被告人の捜査段階の供述調書等を総合すれば、これを優に認めることができる。原判決がこれと同旨の判示をするところはまことに正当であり、所論がるる指摘する点を検討しても、原判決に誤りは認められない。

4 ところで、当審で取り調べた大蔵事務官藤村豊作成の査察官報告書によれば、被告会社が北島喜美子から取得した北島居宅についての土地の仕入金額三三九二万五二五〇円(底地購入金額一六九二万五二五〇円及び地上権放棄名目一七〇〇万円)は、被告会社が負担していると認められるのであるから、課税所得金額及び課税土地譲渡利益金額の算出において、いずれも損金として計上すべきことは明らかである。しかるに、原判決は、右のうち課税土地譲渡利益金額の算出においては、同金額を認容しているものの(甲第四一号証・原審記録第四冊三五八丁参照)、課税所得金額の算出においては、商品仕入高に計上せず(甲第一〇号証・原審記録第三冊五四丁参照)、同金額を損金として計上しないまま、被告会社の同期の実際所得金額を二億六八八二万三三六七円と認定している。したがって、原判示第一の事実摘示においては、三三九二万五二五〇円分を過大認定しており、正規の法人税額及び逋脱額は一億七〇九八万四五〇〇円から一億五七四一万四五〇〇円に変更して認定するのが相当である。右の限度で原判決にはその認定に誤りがある。

二  被告会社による穴川物件の譲渡について

(論旨)

千葉市稲毛区穴川所在の建物及びその土地賃借権(以下、「穴川物件」という。)を北島喜美子に譲渡したのは、田口等であり、被告会社ではないから、原判決が、同物件の売上高金三一二七万六四三九円を被告会社の売上高に計上したのは、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認、法人税法の適用の誤りがある。

(当裁判所の判断)

田口の各検察官調書によれば、田口が穴川物件の取得等に関与した形跡は窺われず、その他関係証拠によれば、被告会社による北島居宅の取得と関連する代替物件の斡旋としてされた穴川物件の譲渡は、被告会社から北島に対するものであることは明らかであり、これに反する証人田口の原審公判廷の証言は信用できない。原判決に事実誤認ないし法令適用の誤りはない。所論は穴川物件の取得代金につき被告会社が拠出したと認めるに足りる証拠はないから、被告会社が同物件を取得したことの証明もないことになると主張するが、三本松義雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲第七九号証)などによれば、被告会社において資金手当がされたことが窺われるのであるから、所論は理由がない。

三  市川キヱ子及び石川三千夫への各土地建物譲渡の益金計上等について

(論旨)

1 市川キヱ子及び石川三千夫に対する商品売上及び工事売上は、工事の完成引渡が翌事業年度に行われたものであるから、本件事業年度の収益として計上すべきではないのに、原判決が本件事業年度の収益とし計上したのは、事実を誤認し、収益の帰属についての法令の適用を誤ったものである。仮に右売上が本件事業年度に計上すべきものとしても、被告会社の右措置は顧問税理士の指導のもとになされたものであるから、被告人には逋脱の故意を認めることができないのに、これを認めた原判決には事実誤認がある。

2 右商品売上及び工事売上は、第三者名義で取引したこととは何の関係もないので、逋脱税額からは右売上に相当する金額を控除すべきであるから、原判決には逋脱額算定について判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認又は法令適用の誤りがある。

(当裁判所の判断)

1 関係証拠によれば、被告会社は、本件事業年度中に、市川及び石川への各建売住宅の売却につき、各工事代金及び土地代金を受領したことが認められるのであるから、右受領金額は右各取引における工事売上及び商品売上として本件事業年度に計上されるべきものとした原判決に事実誤認ないし法令適用の誤りはない。また、関係証拠によれば、被告会社が本件事業年度の申告書の作成を顧問の山下忠雄税理士に依頼したのは、本件事業年度の申告期限である平成二年五月三一日を一年余り経過した平成三年五月ころであるから、それ以前に右税理士が右の非計上及び不申告について指導することはあり得ないから、被告会社の逋脱の故意に欠けるところはなく、原判決に事実誤認はない。

2 本件は、いわゆる虚偽不申告の事案であって、納税すべき額全体について逋脱の故意があり、かつ、明白な所得秘匿工作を伴っていたのであるから、本件事業年度に実名名義による取引が別途あったとしても、納税すべき額全体について逋脱の結果を招く危険があったばかりか、全体として虚偽過少申告の事実以上の違法性を帯びるものというべきである。そうすると、右の取引に相当する部分を含めて全体として逋脱罪が成立するものと解するのが相当であるから、所論も理由がない。

第二所得税法違反事実(原判示罪となるべき事実の第二の一ないし三)関係

(論旨)

被告人は商品先物取引において仮名借名名義を使用したことは、建玉制限を免れて同取引を有利に展開するための手段であり、仮名借名名義の預貯金も資金の払い戻し等の便宜のためのものであって、所得を隠蔽する目的でしたものではないから、「偽りその他不正の行為」は存在せず、また、被告人には右名義の使用を課税を免れるための不正行為とする認識はなかったから、犯意を欠くというべきであり、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認又は法令の適用の誤りがある。

(当裁判所の判断)

先物取引を仮名借名の取引口座を用いて行い、そこで得た利益を複数の金融機関に仮名借名口座を設けて預貯金を行うことは、自己の所得を秘匿し、課税対象所得の捕捉を著しく困難にするものであって、「偽りその他不正の行為」に当たることが明らかであり、これらが所論主張のように取引上の戦術としての側面を有するとしても、右の事実が否定されるわけではない。

所論は、被告人が先物取引により得た利益については、税務調査により指摘されたものの、それが被告人又は被告会社のいずれに帰属するか不明で、税務当局の指示があるまで待つようにとの税理士の指導があったため、申告を控えていた旨主張するが、山下忠雄税理士の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲第八一号証)によれば、そのような指導をしたことを認めることはできず、同税理士の当審における証言も甚だ曖昧なものであって所論を裏付けるものとはいえない。被告人は、捜査段階では、取引利益につき逋脱の意図があった旨供述しているところであり、右供述内容は自然で合理的であり、十分信用することができる。これに対し、所論に沿う被告人及び証人田口の原審公判廷における各供述、当審で取り調べた被告人作成の陳述書は、信用することができない。原判断に事実誤認ないし法令適用の誤りはない。

第三破棄自判

前記第一の一(当裁判所の判断)4のとおり、原判決には事実誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

そこで、その余の控訴趣意(量刑不当の主張)に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄することとし、同法四〇〇条ただし書にしたがい、被告事件につき更に次のとおり判決する。

一  罪となるべき事実

原判示の罪となるべき事実第一の事実中、平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度の被告会社の実際所得金額が「二億六八八二万三三六七円」とある部分を「二億三四八九万八一一七円(別紙1の修正損益計算書参照)」と、被告会社の右事業年度における法人税額「一億七〇九八万四五〇〇円を免れ」とある部分を「一億五七四一万四五〇〇円(別紙2の脱税額計算書参照)を免れ」と、それぞれ訂正するほかは、原審の認定するとおりであるから、これを引用する。

二  証拠の標目

原判決が判示第一事実につき掲げる証拠に当審で取り調べた大蔵事務官藤村豊作成の査察官報告書を付加する。

三  法令の適用

1  被告会社について

原判決と同様に法令を適用し、その罰金額の範囲内で被告会社を罰金三六〇〇万円に処することとする。

2  被告人について

原判決と同様に法令を適用し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年一〇月及び罰金七〇〇〇万円に処し、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のものをいう。以下同じ)二一条を適用して原審における未決勾留日数中四〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

四  量刑の理由

被告人及び被告会社の法人税法違反の犯行は、本件土地取引による多額の利益がありながら、法人税確定申告書を提出せず、一億五七〇〇万円余りを脱税したものであり、逋脱率は一〇〇パーセントである。その不正行為の態様は、土地売買取引を土地建物売買取引に仮装した上、土地部分は中間省略登記によるなどして、その売主が被告会社であることを隠蔽し、建物部分についてはその土地利用権を付加させて、親族の名義を用いて取得した上、いわゆるダミー会社を介して売却し、利益がないかのように仮装して所得を秘匿し課税を免れようとしたものであり、そのため種々の実体に沿わない契約書等の書類を作成するなど画策しており、犯行態様は悪質である。犯行に至った経緯も、橋本からの種々の助言、情報をもとにしているものの、被告人自身が積極的に行動している。被告人の所得税法違反の犯行は、被告人が主として商品先物取引で巨額の利益を得ながら、三か年にわたり、所得税確定申告書を提出しないで、合計三億五〇〇〇万円余りを脱税したものであり、個人の脱税額としては極めて巨額であり、逋脱率は一〇〇パーセントである。その不正行為の態様は、商品先物取引において、延べ二〇件近くの仮名借名の取引口座を開設するとともに、同取引で得た利益を延べ四〇件を超える預貯金口座に分散して預貯金して隠匿したものであって、悪質である。以上の諸事情等を考慮すると、被告会社及び被告人の刑事責任は極めて重いといわなければならない。

そうすると、法人税法違反事件については、橋本からの助言を受けて企図されたもので、当初から脱税を計画していたものではないこと、所得税法違反事件については、仮名借名の取引自体は委託会社の対応に助長された面も窺われること、被告人には罰金刑に処せられた以外に前科はないことのほか、これまでのその稼働状況や家族状況を斟酌しても、被告会社及び被告人につきそれぞれ主文の刑はやむを得ないところである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 平谷正弘 裁判官 佐藤公美)

別紙1

修正損益計算書

自 平成元年4月1日

至 平成2年3月31日

<省略>

別紙2

<省略>

平成八年(う)第一五九四号

控訴趣意書

(一) 株式会社カワイ住宅

(二) 川井清雅

右(一)および(二)に対する法人税法違反、右(二)に対する所得税法違反各被告事件の控訴趣意は以下のとおりである。

平成八年一二月二五日

右被告人ら弁護人

弁護士 秋山泰雄

同 上出勝

東京高等裁判所第一刑事部 御中

第一章 法人税法違反の公訴事実について

第一 原判決の要旨

一 原判決は、「不動産売買を行うに当たって、第三者名義で取引きするなどの方法により所得を隠匿し」、平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が二億六、八八二万三、三六七円のところ納期限までに申告書を提出しないで右期限を徒過させ不正の行為により同事業年度における法人税額一億七、〇九八万四、五〇〇円を免れた、と判示した。

二 しかし、右判示には、以下に述べるとおり、判決に影響を及ぼすべき事実誤認および憲法、法人税法などの法令の解釈適用の誤りならびに理由不備および理由齟齬がある。

第二 控訴理由

第一点(実際所得金額、課税土地譲渡利益金額およびほ脱税額算定の誤りについて)

一1 原判決は、同年度における被告人会社の実際所得金額を金二億六、八八二万三、三六七円、課税土地譲渡利益金額を金二億一、四四五万一、九〇九円とし、ほ脱税額を金一億七、〇九八万四、五〇〇円と算定した。

右算定は検察官冒陳陳述書別紙「脱税額計算書説明資料(損益)」のうち「修正損益計算書」および各勘定科目ごとの「調査書」の記載をそのまま認めたものであるところ、右計算書のうち千葉瓦斯に対する本件各土地の譲渡代金に関する益金には、弁護人らが原審「弁論要旨」において指摘したとおり、被告人会社に帰属するとは認めることの出来ないものおよび同年度収益には含まれないものが含まれている。

その結果、ほ脱額もまた不当に過大なものとなっている。

2 すなわち、

<1> 右計算書は、千葉瓦斯株式会社(以下、「千葉瓦斯」という。)に対する商品売上高として本件各土地の同会社の取得価額である金五億二、八四〇万円の全部を計上する。しかし、そのうち、金一億五、二四〇万二、〇〇〇円は本件各土地の登記簿上の所有名義人である田野清の相続人である近藤綾子ら八名(以下、「本件相続人」という。)らがその売買代金として取得したもの、そのうちの金二億四、〇一七万六、九五七円は本件土地上に建築されていた北島喜美子所有建物(以下、「北島居宅」という。)の所有権およびその敷地に対する借地権を有していた田口稔昌および川井源一がこれらの譲渡代金として取得したものというべきであるから、これらは被告人会社の右売上高には含まれず、これらを除外した残額である金一億三、五八二万一、〇四三円が千葉瓦斯に対する被告人会社の売上高というべきである。

<2> 次に、右計算書は北島喜美子に対する穴川物件の商品売上高として金三、一二七万六、四三九円を計上する。しかし、右物件は、北島居宅取得にあたり、同人から代替住居の提供を求められたために、競売手続においてこれを取得したうえで同人に譲渡したものであり、北島居宅は田口稔昌および川井源一が取得したものであるから、代替住居取得に関する費用も同人らの負担したものとみなすべきである。すなわち、右物件を北島喜美子に譲渡したのは被告人会社ではないから、右売上高を被告人会社の売上高に計上すべきではない。

<3> また、右計算書は市川キヱ子および石川三千夫に対する商品売上および工事売上を収益として計上する。しかし、右工事が完成し右両名に対して建物を引渡したのは右事業年度内ではなく、翌事業年度になってからのことであるから、右収益は右事業年度の収益として計上すべきものに該らない。

3 右各金額についての誤りについては、原審において、弁護人らが主張立証に努めたところであり、その具体的内容およびほ脱額の誤りは原審弁論要旨に記述したとおりである。しかるに、原判決は、弁護人らの主張をすべて排斥し、その理由を「第二 法人税法違反に関する主張について」において判示するので、弁護人の要旨を改めて述べるとともに、右判示に反論すると以下のとおりである。

二 (右一、2の<1>の点について)

1(一) 被告人会社が北島才二郎の所有する事務所およびその敷地に対する借地権を競落しようとした昭和六三年一二月はじめ頃における土地の利用状況は「実測図」(弁第四号)に記載されているところであり、北島喜美子の夫である北島才二郎の所有する「事務所」(以下、北島事務所」という。)、北島喜美子が所有し居住する「居宅」(以下、「北島居宅」という。)、倉庫、物置などがその上に建築されていた。

これらの土地はいずれも田野清の相続人ら八名が共有していたものであるが、北島事務所の競落手続において、千葉地方裁判所は、その敷地は本件各土地のうち六九〇番一全体に及んでおり、この敷地につき北島才二郎の借地権(地代月額三万円、期間昭和五三年一〇月一日から二〇年間)があるものとし、建物価格を金一、四四六万五、〇〇〇円、借地権価格を金二、五六五万八、〇〇〇円と評価し、右借地権付で北島事務所を競売に付していた(弁第二七、二八号)。

(二)(1) 被告人は、橋本巌のすすめに従って、北島事務所を競落することとし、昭和六三年一二月五日、被告人会社名義により裁判所に買受申出をし、その保証金八〇二万六、〇〇〇円を納付した。そして、平成元年一月三〇日残代金を納付して、これを取得した。

(三)(1) 右買受申出の時点においては、被告人は北島事務所を被告人会社の事務所として使用することを考えていた(乙第八号、田口稔昌証言、被告人の公判廷供述など)。

(2)(ア) しかるに、この点について、原判決は、「(被告人会社が北島事務所を競落するとともに)橋本が相続人らをとりまとめた上、北島事務所の敷地全体を取得、転売することを話合い、その際、被告人川井との間で、転売利益についての取り分の割合を取り決め、その数日後、右取り決めの外に、相続人らのとりまとめは橋本が行ない、それに要する経費は被告人会社が負担するといった内容をも取り決めた。」と判示する(原判決二六頁)。すなわち、北島事務所の取得は、当初から、本件各土地全体を買上げることを目的とするものであったとするのである。

しかし、右判決内容を認めることは出来ない。

(イ) なるほど、橋本巌の供述調書(甲第五八号)には、右判示のように要約できなくもない記述がある。しかし、右判示は、右記述のうちの重要な意味を帯びる部分を看過して不正確に要約したものであるだけでなく、現実には、右要約にいう「取り決め」はその後に変更され実行されていないものである。

右記述の要旨は次のようなものである。

「昭和六三年一一月頃、北島事務所の競落について話合っているときに、被告人から「橋本さんの方で相続人を取りまとめてもらって、底地も買えるようして欲しい」との申入れがあった。底地とは「北島建設が仕事に使っていた加曽利町物件上の会社敷地全部のことであると思った。「底地が欲しい。」というのは建物の法定地上権の成立している底地だけでなく、当然、会社敷地全部と思ったので、私のほうから底地の範囲は聞かなかった。なんとか出来ると思ったので、「やってみましょう。」といって、橋本巌の報酬割合を一五七分の五七と決めた。そして、その数日後、右報酬割合、底地の取りまとめは橋本が行うこと、経費は被告人が負担することなどを「協定書」と題する文書に記載して一通づつ保管することにしたが橋本保管分は火事で消失した。」と。

しかし、右記述内容には、以下に述べるとおりその真実性を疑うべき重大な疑問点を含んでいる。

第一は、被告人が買上げを依頼された「底地」の範囲は北島建設が仕事に使っていた土地全部というのであるが、右理解は不自然であり、肯認できないことである。まず、本来、「底地」というのは、賃借権などの用益権の目的とされている土地の所有権のことであるところ、競落の対象とされていたのは北島事務所とその敷地に対する借地権であるうえに、被告人はその競落について相談するために橋本と面談していたのであるから、この際に、「底地」といえば、右借地権の対象とされた土地の所有権と理解するのが当然である。右記述においても、右理解は、橋本巌の一方的な考えにすぎないものであることを認めている。次に、右供述には「この約束の段階では「底地」の中には、後でお話しする北島喜美子さんの自宅敷地部分は含まれていません。」との部分があるところ、この敷地部分を含まないとすれば、残りは、実質的に、北島事務所の敷地と異なるところはなく、本件土地の全部にはならない。すなわち、橋本の右理解についてはとうてい正しいものとは認めることのできないものである。

第二に、本件土地全体の買上げということになると、当然に、その価格の見込みなどが話題にならなければならない。そうでなければ、実際に買上げることの可能性が判断できないから、被告人がその判断なしに買上げを依頼するということは常識的にもあり得ないというべきところ、買上げに要する代金、費用について話合った形跡がないからである。従って、右供述をもって、敷地全体の買上げが本気で具体的に話合われたこととすることは出来ない。

第三に、右供述の報酬割合についての合意なるものは、実際には、橋本巌からも、被告人からも無視されて実行されていないからである。この点については、橋本巌の他の供述調書(甲第六一号)に詳細な供述がある。なお、右の報酬に関する協定書なるものについては、その存在も内容も定かではない。

そして、第四に、後述するとおり、橋本巌自らが右供述調書において、北島事務所の買受申入れの後に、北島喜美子に面談した際に、北島居宅とその敷地を含む相続土地全体の買受けの要望が同人から表明された旨供述し、同人から本件各土地買上げの要望があったのはこの際であったことが明らかになっているからである。

以上に述べたところによれば、北島事務所買受けのときから、被告人は本件土地全体を買上げることを意図していたとの右判示には、これを認めるに足る証拠はなく、これを認めることは出来ない。

(四)(1) 右買受申出をしたことから橋本巌は北島事務所の所有者である北島才二郎の妻である北島喜美子に挨拶するために同人と面談したところ、同人から本件各土地全体、同町七一四番一の土地(以下、「甲物件」という。)、同町一八〇一番一の土地(以下、「乙物件」という。)など田野清の相続人らの共有する土地についても買上げて欲しいとの要請があった。そして、とくに、同人が所有し居住する建物である北島居宅について、これに設定されている根抵当権を抹消し、代替住宅を提供してくれることを条件に、これをその敷地に対する借地権付で売却する意向のあることを表明した。橋本巌は、北島居宅売却の意向を被告人に伝え、これを買受けることをすすめた。

これに対して、被告人は、田口稔昌、川井源一が住居としていた西五所の土地建物を売却したばかりであったので、右両名の住居として使用させる目的でこれを取得しようと考えた。そこで、その買受資金を銀行から融資を受けようとして千葉興業銀行光風台支店、第一勧業銀行五井支店と相談したが、被告人または被告人会社に対する融資は出来ないが、田口稔昌または川井源一に対してなら融資できるとのことであったので、これに応ずる意向を橋本巌に伝えた(乙第八号、田口稔昌証言、被告人公判廷供述など)。

(2)(ア) しかるに、この点について、右判示は、橋本巌は被告人に対して「北島の自宅分の土地を買えば、一体となって売り物が広くなるよ。ただ、現に北島が住んでいるから、土地を転売するには北島の自宅建物を買って北島に出ていってもらうことになる。」などと本件各土地をまとめて買う話を持ちかけたところ、北島の右債務は弁済され、右担保権が抹消され北島事務所につき田口稔昌、川井源一に対する所有権移転登記がなされたと判示する(原判決二八頁)。すなわち、原判決は、被告人は本件各土地をまとめて買う目的で北島事務所を取得したものである、とするのである。

(イ) しかし、右判示は肯認できない。なぜなら、自らが所有し居住する北島居宅だけの売却であれば北島喜美子だけの決断で売却することは出来るが、本件各土地は本件相続人らの共有であるから、土地全体の売却となれば同人だけの決断ではできないものだからである。そして、同人が本件相続人らから本件各土地の売却を任されていたと認めるに足りる状況は何らないのであるから、同人の要請は、単に、同人の願望を述べたものにすぎないと解すべきものであって、いまだ現実的なものとは認められない。橋本巌にしても、被告人にしても、右要請がなされたからといって、その程度のことで、実際に、本件各土地を買受けることが出来ると判断できたとはとうてい認められず、右判示は、事態の客観的推移からみて、明らかに不自然である。

他方、北島居宅売却の件については被告人がその供述調書(乙第八号)に具体的かつ詳細に供述するとおり、同建物に田口稔昌、川井源一らを居住させたいとの現実的な希望があっただけでなく、すでに北島事務所についてこれを被告人会社の事務所として使用する目的で買受申出を済ませていたことから、北島居宅をも取得することが出来れば好都合と考えたため、これに応じたというのであり、右供述等を疑うべき何らの理由も見当たらない。

なるほど、右判示については、これにほぼ一致する橋本巌の供述調書(甲第五八号)の供述がある。しかし、いまだ同人と被告人との交際は日が浅く、同人が被告人の考えを充分に理解できていたとは考えられないことからして、とうてい信用できるものではないし、同人自らが当初からいわゆる地上げを構想していたことから、被告人も同様の意図であったはずだと思い込んでいたことを示すだけのものにしかすぎないと判断すべきであり、被告人の捜査段階における右供述調書中の記載を排斥してまで、信用すべき理由があるとは認められない。

すなわち、被告人は当初から本件各土地全部を買上げる目的であったとの右判示はとうてい肯認できない。

(五)(1) 橋本巌が、北島喜美子と交渉した結果、同年一二月二〇日、被告人が千葉中央銀行中央支店に現金一、九〇〇万円を持参して提供したことにより、北島事務所につけられていた同銀行の根抵当権は抹消された。また、その際に、同日付で売主を北島喜美子、買主を田口稔昌、川井源一とし、本件居宅を金一、九〇〇万円で売却する旨の建物売買契約書(甲第五八号)が締結された。そして、同月二三日受付をもって田口稔昌、川井源一に対して同建物の共有持分各二分の一づつを譲渡した旨の所有権移転登記手続がなされた。そして、その後から田口稔昌は北島喜美子に対して右建物の敷地の地代を送金して支払った。

また、その後、同人に対して、代替住宅として穴川物件を譲渡し、「地上権放棄料」名目で借地権譲渡代金一、七〇〇万円を支払った。

なお、被告人が同銀行同支店に持参した現金一、九〇〇万円は田口稔昌、川井源一によって西五所売却代金をもって調達されたものである。

(2)(ア) しかるに、この点について、原判決は、「(橋本巌は)北島の前記債務の整理や物件の処理に当たり、物件名、買主名、日付等が空白のままの同人名義の署名押印された売買契約書や、宛名、日付、金額等が空白のままの同様の領収証等の交付を受け、右契約書については、昭和六三年一二月二〇日付け、売主北島、買主田口稔昌等(一部訂正あり)とする北島居宅に関する売買契約書や、売主北島、買主被告人会社とする北島が所有する他の物件に関する売買契約書として用いられ、領収証は、右物件の売買代金一、〇〇〇万円の授受の領収証や本件土地取引の処理に伴う金銭授受の領収証などとして用いられた。」と判示した。

右判示の趣旨は、判文上は、必ずしも明確ではないが、北島居宅に関する右売買契約および右領収証については、北島喜美子は物件名、買主名、日付等が空白のまま署名押印した売買契約書、領収証等を橋本巌に交付したにすぎないから、右売買契約書および領収証は真実の取引関係を示すものとは認められず、これをもって北島居宅の買主を田口稔昌、川井源一と認定することにはならない、とする趣旨と思われる。

しかし、すでに述べたとおり、北島居宅については、登記簿謄本(甲第七二号)の記載上明らかなところであるが、いずれも昭和六三年一二月一三日受付をもって、北島喜美子から田口稔昌、川井源一に対する所有権移転登記および乙区四番根抵当権抹消登記がそれぞれなされている。前者の登記申請手続には、少なくとも、北島喜美子の司法書士に対する印鑑証明書付委任状が必要であり、当然に、同人はこれを交付したはずである。また、右登記については同人が具体的に承諾したものと認められる。したがって、同人は田口稔昌、川井源一が買主となることを承知していたと認めるべきであるし、後者の根抵当権設定登記の抹消により、その被担保債権が消滅したのであるから、消滅した債権額相当額を田口稔昌、川井源一から同人が受領したことになることも当然のことである。また、右各手続は千葉銀行中央支店において、同人も同席してなされたものであり、契約書等の文書の趣旨などについては、銀行側からも説明があったはずであるから、同人が宛名、日付、金額なとが白紙のままの契約書等の署名押印したものとはとうてい信じ難い。

すなわち、右判示の趣旨が、右売買契約書や領収証の記載は北島居宅の買主が田口稔昌、川井源一であったことを意味するものとはいえない、とするものであったとしたら、右判示は明白な誤りとするほかはない。

しかも、右判示の事実については、これを認めるにたる証拠がない。すなわち、右経緯については、橋本巌の供述調書の記載にはこれに副うものはなく、北島喜美子の「質問てん末書」(甲第八〇号)の記述は概ね右判示に副うものではあるが、右記述には知らないはずがないことを知らないと述べた部分やこれまで虚偽の供述をしていたとして訂正したりした部分があるほか、全般的に具体性を欠くものであるうえに、右供述によっては、橋本巌が北島喜美子から白紙に署名押印した複数の売買契約書、領収書等の交付を要求する必要性も北島喜美子がこれを交付する理由も不明確であって、右供述は信じ難しいものであるうえに、橋本巌の供述調書の記載には、これに副うものはないから、右供述は安易に措信してよいものとはとうてい認められないからである。

また、借地権譲渡代金一、七〇〇万円の支払は、北島喜美子名義の「地上権放棄料」名目の領収証(弁第一一号)が同人から交付されているのであるから、たとえ同人が供述するように右金銭が交付された事実はなくとも、これに対応する経済的利益が供与されたことにより右代金は支払われているものと認めるべきである。

(イ) 次に、原判決は、「二 当裁判所の判断」の1(一)の項において、「被告人会社は、課税事実上、千葉瓦斯に対し、本件土地を五億二、八四〇万円で譲渡したものと認めることができる。」と判示した。そして、右の(三)の項において、北島居宅は田口稔昌、川井源一が取得したものであり、その譲渡による収益は右両名に帰属するとの弁護人の主張に対して、要旨として、以下の点を指摘してこれを排斥した。すなわち、<1>西五所の土地建物の売却資金がその取得に充てられたことをうかがわせる証拠はないのみならず、税務署からの「譲渡内容についてのお尋ね」(弁第九号)に対する回答内容とも符合しない不明確なものであるし、<2>この点についての田口稔昌の証言は具体性を欠き曖昧なものである。また、<3>被告人の供述調書(弁第八号)には、北島居宅取得資金について、金融機関には被告人および被告人会社からの借入れ枠がないので田口らの名義で借入れた旨供述しているところ、この供述は信用性の高いものであるというのである、と。

(あ) 右判示のうち(一)の部分は、原判決としては、千葉瓦斯が本件各土地の取得代金として支払ったものは北島居宅の譲渡による収益をも含めてすべて被告人会社に帰属したものと認定するとするものである。しかし、千葉瓦斯による取得代金は「課税事実上」すべて被告人会社の帰属したとする点は、法人税法二二条一項を無視したうえ、「課税事実上」という何ら法令上の根拠のない内容不明の論理によって、収益の帰属を認定するものであって、憲法八四条の定める租税法律主義にも反する不当、違法なものであり、とうてい肯認できない。

すなわち、北島居宅の売却については、売主北島喜美子、買主田口稔昌、川井源一とする売買契約書、北島喜美子の署名押印した右代金受領を示する領収証があり、契約書どおりの所有権移転登記がなされている事実によって、売主、買主の双方ともに、北島居宅は、同人から右両名に譲渡する意思であったとみなすべきものであることは明らかであり、同法二二条一項、同法一一条によれば、原則として「収益の法律上帰属するとみられる者」に収益が帰属すると解されるから、北島居宅譲渡の収益は田口稔昌、川井源一に帰属したと認めるのが当然というべきである。もっとも、右収益については、同法一一条の適用があると認められる場合には、右両名に帰属しないとすることが出来るが、右適用が認められるのは「収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する」場合でなければならない。そして、本件取引においては、北島居宅譲渡の収益の法律上帰属する者が田口稔昌、川井源一であることは明らかであるから、これと異なる認定をするには、同法一一条に定める要件を充足することについて合理的疑いを容れない程度の証明がなされなければならない。しかるに、右判示は、単に、「課税事実上」、被告人会社の収益と認定できるというにとどまり、同条の要件の充足につき何ら説示するところがない。いうまでもなく、憲法八四条の定めにより、収益の認定は、法人税法の規定に従ってこれをなすべきであるところ、同法には「課税事実」などというものによって収益の帰属を判断すべき旨の規定はないのであるから、右判示は、憲法八四条に違反し、法人税法の規定に基づかずに法人税課税の基礎たる収益を認定したものというべきである。

(い) なお、右判示は、後にも言及するとおり、北島居宅の取得代金について、これを田口稔昌、川井源一が支出したとの弁護人の主張を排斥し、むしろ、被告人会社が右両名名義で金融機関から借受けたとの被告人の供述調書の記載のほうが信用性が高いとする。すなわち、右判示は、北島居宅の取得資金を右両名が支出したとの弁護人主張の事実が証明されず、かえって被告人会社が右両名名義で借受けた可能性があることを理由に、右収益は被告人会社に帰属したと判示したのである。しかし、右判示は、法人税法における収益の帰属に関する原則を理解しないものである。なるほど、資産の譲渡による収益の帰属の判断において、右資産の取得資金の出所は重要である。しかし、それのみによって、収益の帰属が定まるものではもとよりない。例えば、取得資金を第三者から借用して取得した場合であったからといって、収益の帰属が貸主になるわけではない。したがって、田口稔昌、川井源一が右取得資金を支出したことについての証明がなくとも、そのことだけで、右両名に帰属することを否定することは許されない。右取得資金は被告人会社が支出したものであるとともに、法律関係における右両名名義の使用は単なる法律的形式にしかすぎないことが証明されてはじめて、右両名にではなく被告人会社に収益が帰属したと認定することが出来るのである。しかし、右の点については、右判示は何ら言及していないのみならず、右のとおりに認定するに足る証拠の存在はまったく認められない。しかも、北島居宅取得のころ、右両名が西五所の土地建物の売却代金を有している一方で、被告人会社には右取得資金がなく、実際にも、被告人会社による右取得資金の出所が検察官によって立証されていないという事実は、右譲渡による収益は被告人会社に帰属したとの認定を妨げるべき決定的に重要な意味を有する。

(う) 右判示は、被告人供述の記載によれば、被告人会社が右両名名義で金融機関から借受けた可能性があるとするが、右判示は右調書を軽卆にも誤読したことによるものであるうえ、右両名が被告人会社名義で借受けたという金融機関名、その状況もまったく不明のままであるから、右判示のとおりに認定することは、採証法則を完全に無視したものというほかはない。

すなわち、北島居宅譲渡の収益は被告人会社に帰属したとの右判示は事実を誤認し、かつ、法人税法の適用を誤ったものというべきである。

(ウ) また、右判示(三)の項における右<1>ないし<3>の内容それ自体にも肯認できない点がある。

(あ) まず、右<1>のうち、「譲渡内容についてのお尋ね」に対する回答内容は、北島居宅の取得代金に西五所の土地建物の売却代金が充てられたこととは無関係であり、この点を否定する意味を有しない。なんとなれば、右回答は、北島事務所および北島居宅の譲渡による収益に対する課税を免れる目的で策定された脱税工作、すなわち、北島事務所については被告人会社から株式会社大東食品に対して、北島居宅については田口稔昌、川井源一から同社に対して、それぞれ実際の取引価額よりも安価に譲渡されたうえで千葉瓦斯に譲渡されたとの形式を備えるとの工作に従って、売買契約書および領収書が作成されていたところから、田口稔昌は、これに合わせる形で、北島居宅は田口稔昌、川井源一から同社に対して譲渡したものである旨回答したものであって、右内容は、もともと虚偽のものにしかすぎず、北島居宅の取得資金の出所とは何ら関係のないものである。したがって、この回答内容を理由に北島居宅の取得資金は西五所の土地建物の売却代金を充てたとの事実が否定されることにはならない。むしろ、かえって、右回答書においては、北島居宅は右両名が取得したうえで譲渡したものであるとされている事実こそ、北島居宅の譲渡代価の帰属の判断にあたって考慮されるべき事実である。

(い) 次に、右<2>については、右譲渡から田口稔昌の証言時までにはすでに七年の年月を経ていただけでなく、右取引に関する関連資料はすべて証拠物として差押えられていて同証人がこれを閲読することが出来ないために記憶喚起の方法がないという状況のもとにおける証言であるから、その内容に具体性が欠け、曖昧な点が生じるのはやむを得ないところであって、このことをもって、同証人の証言が措信できないとするのは相当ではなく、むしろ、明確ではないものについても記憶のままに証言していると認めるべきである。また、同証人は、右事実を捜査官に説明したが、調書には記載して貰えなかったというのであるが、他方、右資金の出所については解明されていないことからすると、捜査官が先入感をもって捜査にあたり、田口稔昌、川井源一が右資金を拠出したにもかかわらず、このことを認めることを拒絶し、裏付捜査をしなかったものである疑いがある。

(う) 右<3>の判示は、明らかに、被告人の供述調書の内容を軽卆に読んだことにより生じた誤解に基づくものであり、明確に誤ったものである。すなわち、右判示に引用された平成七年三月一六日付検察官に対する被告人の供述調書(乙第八号証)のうち右に関連する部分の記載内容は次のようなものである。すなわち、橋本巌から北島居宅の買取りを勧められたので、「欲しいけれども金ができるかどうか判らないので返事はちょっと待ってくれ」と答えたうえ、千葉興業銀行光風台支店、第一勧業銀行五井支店などと相談してみたところ、被告人や被告人会社の借入額では既に借りられないが田口稔昌、川井源一名義なら貸せるということで、すぐに橋本巌にその旨伝えた。というのである。すなわち、右供述は、銀行からは、田口稔昌などの名義でならば借入が可能である旨の回答があったというにとどまる。右供述調書はもとよりその他の同人の供述調書のなかにも、実際に、田口稔昌らの名義で借入が出来たと述べる部分は存在していないのである。しかるに、右判示は、右供述調書には、同人らの名義で借入れたとする旨の供述が含まれていると誤解したのである。すなわち、右判示のうち、被告人供述調書において、被告人は「田口らの名義で借入れた」と供述したとする点は、軽卆かつ単純な誤りであり、これを認めるに足る証拠はなく(なお、蛇足のきらいはあるが、右供述調書には原判決のいう「甲物件」(被告人供述調書における表現に従えば「B物件」)について田口稔昌、川井源一名義でこれを相続人らから買受けるについて右両名が第一勧業銀行五井支店から右両名名義で金五、〇〇〇万円づつ借入れたことがあるとの記載があり、右判示は右供述部分と北島居宅取得資金の出所についての供述とを混同、誤認した疑いがある。)、右判示は極めて初歩的で粗雑な誤りに基づくものとしてとうてい認めることのできないものである。

(六) 橋本巌は、その後、本件相続人らを取りまとめるために奔走し、同年三月二八日には、売渡証明書(相続人代表近藤綾子から橋本巌宛のもの)、買付証明書(オトワコンストラクションズから田野清相続人ら宛のもの)が発行されたりもしたが、進展しないでいた。また、その頃、千葉瓦斯に買受けの意向のあることが判明し、関係者間において折衝が開始された。そして、同年五月頃には、橋本巌と被告人との間において、脱税目的のため、本件各土地の売買に株式会社大東食品を介在させることが話合われた。

(七) 平成元年九月一三日、相続人間における遺産分割協議がまとまり、本件各土地を一括して千葉瓦斯に譲渡することになった。そこで、国土利用計画法に基づく協定書が作成され同法の手続のために千葉市に提出された。右協定書においては、売主は被告人会社および音羽建設有限会社、買主は千葉瓦斯とされ、その代金は金五億四、八〇〇万円とし、その内訳として土地価格を金二億円、建物価格を金三億四、八〇〇万円とし、土地については「(売買契約時現登記名義人八名)」と建物については「(売買契約時の売主は甲の指定する他の第三者)」とそれぞれ付記された。また、実測上の面積が公簿上のそれよりも二三坪多いことについて公簿により代金を決済した後に地積訂正登記の終了後差額を支払うことおよび建物は残金決済後に売主で取壊し更地として引渡すことなども定められた。

(八) また、同月一八日付で脱税工作の一環として、北島事務所につき被告人会社から大東食品、北島居宅につき田口稔昌、川井源一から大東食品への各売買契約書が作成され、同年一〇月四日にはその旨の各登記手続が行われた。

(九) 北島事務所および北島居宅などは、同年一〇月二〇日頃までに取壊わされ、更地となった。

(十)(1) 同年一〇月二五日、三菱銀行千葉支店において関係者出席のもとに、取引の決済が行われた。

(2) しかるに、右状況につき、原判決は次のように判示した(原判決三九頁)。

すなわち、「被告人は(平成元年一〇月二五日、三菱銀行千葉支店において)千葉瓦斯と売買代金の授受を済ませ、橋本は、同支店別室に居た前記相続人ら八名にそれまでの調整で約束した金銭等を交付し同相続人らに千葉瓦斯宛ての各土地代金領収証を作成させ、大東食品作成名義の領収証とともに、千葉瓦斯に交付した。」。そして、このころ、売主を大東食品、買主を千葉瓦斯とする「土地付建物売買契約書」および本件土地につき売主を各相続人、買主を千葉瓦斯とする各「土地売買契約書」が作成された、と。

右判示部分は、金銭交付関係は、実際に作成された領収証、売買契約書に記載されたところと異なっていることを指摘しようとしたものと解される。しかし、右のとおりに認定すべき信用できる証拠はないうえに、右認定は不動産取引の実情からみて有り得ない事実を認定するものである。

第一に、橋本巌の供述調書(甲第六一号)によれば、当日は、決済場所とされた三菱銀行千葉支店に被告人、橋本巌、売主側の仲介業者、千葉瓦斯の社長、経理担当者、買主側仲介業者、三菱銀行担当者、司法書士、相続人八名が集まり、「登記関係契約書のやりとりが終わった後、千葉瓦斯の社長から預手、現金で代金を受け取り、この中から相続人に各相続人分の預手を渡した」と記載されているにとどまる。また、千葉瓦斯の経理部長であった吉田紀の「質問てん末書」の記載によれば、決済当日には、契約書、領収証等と代金が引換えに交付されたことが窺われ、同人にとって何ら不審な点のないものであったと認められる。そして他に、右判示のとおりに認定するに足る証拠は見当たらない。

千葉瓦斯にとっては、右決済にもかかわらず、後日に紛争の生ずることのないように書類等の交換がなされることが最大の関心事であり、なかでも契約書に契約当事者の署名、押印があり、契約書において代金を受取るべき者とされている者に代金が支払われ、その者の作成した領収書が交付されるとともに、所有権移転登記手続に必要な書類が交付されることが肝心である。しかるに、吉田経理部長が右「質問てん末書」において、右決済について不審、不安と感じたところを何らを供述していないのは、右決済が契約書の記載のとおりになされたからにほかならない。

右判示は、ことさらに、契約当事者らがその意思に基づいて取決めた契約関係について、それが「真実ではなく、「仮装」であると認定しようとするものであるが、その必要性も合理性もなく、とうてい肯認することの出来ないものである。

2(一)(1)(ア) 原判決は、「二 当裁判所の判断」(一)の項において、被告人会社は、「課税事実上」、千葉瓦斯に対して、本件土地を五億二八四〇万円で譲渡したものと認めることができるとの判断を示した。すでに述べたとおり右判示によれば、それ以前に本件各土地の所有権は被告人会社に譲渡されており、北島事務所および北島居宅を取壊わしたうえで、これを更地として譲渡したものであると理解したのである。

右理解は誤りであり、本件各土地の所有権は本件相続人らが、北島事務所とその敷地に対する借地権は被告人会社が、そして、北島居宅とその敷地に対する借地権は田口稔昌、川井源一がそれぞれ千葉瓦斯に譲渡したものであり、その譲渡前に、右建物等が取壊されて更地となったものであり、千葉瓦斯の支払った代金は、あらかじめの協議の結果に従って、右権利者が取得したと理解すべきであり、このことについてはすでに述べたとおりである。

しかし、右判示は、理由を述べて、弁護人らの右主張を排斥するので、右理由の認められないことを明らかにする。

(イ) 右判示の理由は、要約すると、<1>本件各土地についての千葉瓦斯との売買交渉においては、被告人会社が売主の立場で、本件各土地を一体として更地として取引することが前提とされ、実際に、各建物を撤去して更地として引渡していること、<2>千葉瓦斯との交渉、証拠金授受、代金決済等は被告人および橋本巌があたり、売却諸経費は被告人会社から拠出され、本件土地売却代金は被告人会社に帰属していること、<3>本件相続人らと橋本巌との間になされた調整、交渉は本件各土地を含めた相続物件の一括譲渡と処分価額が事前に合意され、本件相続人らはその処分方法には一切関与することがなく、その後の処分、利益の帰属は、被告人会社及び橋本の計算と判断により決定されていることおよび<4>取引関係者らの本件土地取引の経緯状況に関する各供述である。

しかし、右各理由はいずれも右判示の結論を導くものではない。

(2)(ア) (右<1>について)

いうまでもなく、売買交渉は関係当事者間に合意を成立させることを目的とする折衝であり、その過程において当初に示された売買条件などの売買契約の諸要素は変更されることになる。そして、法律的には、最終的に合意された契約の内容こそが取引の内容ということになる。右判示は、売買交渉においては被告人会社が売主の立場であったというが、すでにくり返し述べたとおり、被告人会社は本件各土地の所有者ではないのであるから、本件各土地の所有者らの意向によっては、被告人会社が売主の立場になることもあり得るし、そうでなくなることもあり得るのであって、売買交渉において売主の立場にあったからといって、売買契約においてもそのまま売主であったとすることの出来ないことは当然のことである。また、右判示は、建物等を取壊わして更地として引渡したというが、この点もすでに述べたとおり、建物等はその所有者の承諾を得て取壊すことが出来るのであり、建物等が取壊されたからといって、本件各土地の所有権が被告人会社に移転していたことにはならないことはいうまでもないところである。すなわち、右<1>の理由は、いかなる意味でも、右判示を正当とするものとはなり得ないものである。

(イ) (右<2>について)

(あ) 売買交渉、証拠金授受、代金決済を直接担当した者が誰であるかは、締結された契約関係の内容の理解に影響を与えるものではあり得ない。もし、右の点が契約関係と矛盾、抵触するときは、それまでの交渉内容が契約関係の示すとおりに訂正されたことを意味する。諸経費等を実際に拠出した者が誰であるかについても同じである。契約関係上負担する理由のない者がそれまでに経費を負担していたときは、単に、精算関係が生ずるだけである。

従って、交渉、証拠金授受、代金決済等の担当者および経費の負担者について右判示の述べるところは、右判示を正当とするものにはなり得ない。

(い) 右判示は、本件土地売却代金は被告人会社に「帰属」したとする。しかし、売買契約において代金の「帰属」という概念はなく、右判示がこれによっていかなることを意味しようとしたものか理解できないが、この点が右判示を正当とするものになるとはとうてい思われない。

(ウ) (右<3>について)

本件相続人らが本件各土地の売買交渉に直接関与しないことは何ら特別の意味をもたない。本件相続人らとしては、本件土地の売却により相当と考えられる金額の代金が支払われれば良いのであり、橋本巌が千葉瓦斯と交渉してまとめたところに従って契約を締結しようとしただけのことである。そして、相続人らの取得すべき金額については、本件相続人らはその取得金額の増加を要求して厳しい態度をもって交渉に臨んでいたことが橋本巌の供述調書の記載により窺われる。この点が右判示を正当とする理由になり得ないことは明白である。

(エ) (右<4>について)

右判示によっては、本件土地取引の経緯、状況のうち何をもって右判示を正当とする理由とするものかまったく不明であるが、これらのなかに右判示を正当とする理由があるとはとうてい思われない。

(二)(1) また、原判決は、右同(二)の項において、平成元年一〇月二日ころに作成された協定書の記載内容に言及し、協定書は、「真実の取引対象、当事者、対価関係を反映するものではなく、履行上の便宜のために作成されたものと認められる」とし、右(一)の認定を妨げるものではないとした。

(2) 右協定書は、土地の売買代金の高騰を防止するために国土利用計画法の規定に従い、締結しようとする売買契約における土地代金の価格をあらかじめ行政庁に届出るために作成するものであり、契約それ自体とは異なるものであるうえに同法による行政庁の措置または不措置以前における売買契約の締結を禁止し、これに違反する契約を無効とするから、その内容がそのまま売買契約の内容を示すものではない。したがって、原判決が協定書の記載によっては取引内容の認定は妨げられないとした点は当然である。

しかし、右判示は、右に述べたところを理由とするものではないうえに、そこに述べているところは右判断の理由としては正当なものではなく、そこには、土地取引に対する著しい理解不足を露呈している点があり、このような理解不足が本件取引内容の判断を誤らせ、ひいてはその収益の帰属を正しく理解できなかった原因のひとつになっていることが窺われるので、右の点に論及することとする。

(3)(ア) 「(協定書記載の)地上各建物の代金額がその取得価額とは著しくかけ離れているもので、取引上の合理性がない。」とする点について、

千葉瓦斯に対する実際の売買代金額は右協定書における土地、建物の各売買代金の合計額と同一であるし、土地代金として本件相続人らに支払われた金額も右協定書における土地代金と同一である。したがって、千葉瓦斯は各建物およびその敷地に対する借地権の代金として協定書において建物価格とされたものを実際に支払ったことになる。すなわち、右判示は、右価格がその取得価額より著しく高いとして、協定書の内容は真実の取引内容ではないと判断した理由として説示するが、実際に支払われた建物等の代金は協定書記載のとおりであるから、その取引上の合理性は否定できず、このことは協定書の記載の真実性を否定するものにはならない。

右代金額に取引上の合理性がないということになると、千葉瓦斯は合理性を欠くほど高額な売買代金を支払ったということになるが、千葉瓦斯にとっては、右金額は本件各土地を取得するために相当と判断したものであり、何ら合理性を欠くものではない。すなわち、右判示は、不動産取引の当事者が土地売買において相当として合意した金額についてこれを不合理とするのであるから、経済的取引の合理性をその実態とは関わりなく法的に観念できるものと理解していることになる。その誤りはいうまでもないところであり、右判示は本件各土地の売買が当事者の任意に委ねられた取引であり、裁判所がその合理性を論ずる立場にないことについての理解が欠けていることを示したものというべきである。

(イ) 「(被告人が)土地重課による税金負担を免れるために建物を加えた旨供述するところは(信用できる)。」とする点について、

土地の譲渡利益に対する課税は、法令の定める客観的基準に従ってなされるものであり、契約書の内容によって定まるわけではない。本件各土地には北島事務所、北島居宅などの建物およびその敷地に対する借地権の負担があるのであり、譲渡利益に対する課税にあたっては、当然に、その存在や取得価格が評価の対象となる。すなわち、被告人によって協定書における売買対象に建物が付加されてもされなくても、課税額に変動が生ずる余地はないのである。しかるに、右判示は、取引対象に建物が付加されているとして右協定書は真実の取引関係を示すものではないとするのである。原判決は、課税に関する基本的事実さえ理解せず、このような誤った理解のもとに事実を認定をし、法令を適用した疑いがある。

(三) さらに、原判決は、右同(三)の項において北島居宅は田口稔昌、川井源一が取得したものであるからその譲渡による収益は右両名に帰属するとの弁護人の主張について論じ、これを排斥した。右判示の誤りおよび不当性については、具体的にすでに述べたとおりである。

三 (右一、2の<2>の点について)

1(一) 原判決は、穴川物件の取得について、田口稔昌、川井源一が西五所の土地建物の売却代金を充てたとは認められず、同物件は、被告人会社が北島居宅の取得につき代替物件として提供したものであるから、被告人会社が北島喜美子に譲渡したものとなり、その収益は被告人会社に帰属したと認めるべきである、と判示する。

(二) しかし、右判示は、事実を誤認し、法人税法の適用を誤ったものである。

2(一) 北島居宅は田口稔昌、川井源一が取得したものであること、右取得に関する売買契約書、領収書の記載もこれに一致することについてはすでに述べたとおりである。

これに対して、原判決は北島居宅は被告人会社が取得したものであると判示するが、売買契約書、領収書の記載はこれに合致しないうえに、その取得資金を被告人会社が拠出したと認めるに足る証拠もないのであるから、これを被告人会社が取得したとすることは出来ないことはすでに述べたとおりである。さらに、原判決は、右両名が右資金により取得したと認めることは出来ないとするが、売買解約書、領収書の記載によれば、右両名がこれを取得したとされている以上は、右取得に右両名の資金を充てたことが証明されていないことだけでは被告人会社がこれを取得したことが証明されたことにならず、すすんで被告人会社がこれを取得したことが客観的疑いを容れない程度に証明される必要がある。しかし、被告人会社が右取得資金を拠出したことについてさえ何ら証拠はないのであるから、被告人会社がこれを取得したものであることの証明があったとすることはとうてい出来ない。

(二) そして、穴川物件は、原判決も認定するとおり、北島居宅の代替物件であるから、その譲渡による収益は北島居宅の所有者に帰属すべきものであるところ、右に述べたとおり、北島居宅は被告人会社が取得したものと認めることは出来ないのであるから、右譲渡による収益が被告人会社に帰属したとすることは出来ない。

(三) なお、付言するに、穴川物件の取得代金それ自体についても、これを被告人会社が拠出したと認めるに足る証拠はないから、被告人会社が同物件を取得したとの点についての証明もない。したがって、この点においても、同物件譲渡の収益が被告人会社に帰属したと認めることはできない。

四 (右一、2の<3>の点について)

1(一) 原判決は、市川キエ子および石川三千夫に対する商品売上および工事売上は本件事業年度内に受領したことが明らかであるから、右各売上に同年度の売上として計上すべきであるとする。

(二) しかし、右判示は、事実を誤認し、収益の帰属についての法令の適用を誤ったものである。

2(一) 本件事業年度内に右各工事が完成し引渡されたと認められないかぎり、被告人会社の代金受領権は確定しないのであるから、それまでは、右収益は預り金にとどまる。そして、実際に右工事は本件事業年度内には完成していなかったのであるから、右売上は本件事業年度の収益に計上しなければならないものでない。したがって、右収益は本件事業年度のものとは認められない。

右の点については、田口稔昌、被告人の供述するところであり、右判示は肯認できない。

(二) かりに、右売上は本件事業年度の収益に計上すべきものとしても、被告人会社の右措置は顧問税理士の指導のもとになされたものであるから、被告人にほ脱の故意を認めることは出来ない。

右判示は、顧問税理士の指導は認められないとするが、この点は、田口稔昌が証言し、被告人が供述するところであるから、右判示は誤りとすべきである。

第二点(ほ脱税額に所得隠匿方法と何ら関係のないものが含まれていることについて)

1(一) 原判決は「不動産売買を行うに当たって、第三者名義で取引するなどの方法により」所得を秘匿したとするが、原判決が認定した実際所得金額のなかには右所得隠匿方法と何ら関係のないものを含み、ほ脱税額にも右所得に対応する部分を含んでいる。

(二) しかし、ほ脱税額としては「偽りその他不正の行為」によって免れた金額をほ脱額として判示すべきであるから、右所得隠匿方法と何ら関連のない部分ほ脱税額に含めるべきではない。

2 被告人会社の本件事業年度における売上として原判決の認定した実際所得金額には市川キヱ子および石川三千夫に対する商品売上および工事売上を含んでいるが、右各売上を売上高として計上しなかった理由はすでに述べたとおりであり、不動産売買を行うにあたって第三者名義で取引したこととは何の関係もない。

したがって、原判決認定のほ脱税額からは右売上に相当する部分を控除すべきである。

3 右の点において、原判決には、ほ脱税額の算定についての事実誤認または法令適用の誤りがあり、右誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかである。

第二章 所得税法違反の公訴事実について

第一 原判決の要旨

一 原判決は、被告人は、「商品先物取引を借名及び架空名義で行い、その売買益を第三者名義の預金口座に入金するなどの方法により」、いずれも、所得税確定申告書を納期限までに提出せず、

<1> 平成二年分実際総所得金額二億二、九四四万〇、六〇三円のところ所得税額金一億〇、八九九万二、六〇〇円

<2> 平成三年分実際総所得金額二、五〇一万三、六八八円のところ所得税額七〇六万七、五〇〇円

<3> 平成四年分実際総所得金額四億七、八九二万二、三〇五円のところ所得税額二億三、四〇五万四、〇〇〇円

をそれぞれ免れたとする。

二 しかし、右判示には、以下に述べるとおり、判決に影響を及ぼすべき事実誤認および法令適用の誤りがある。

第二 控訴理由

第一点(商品先物取引における仮名借名名義の使用によりその所得を隠匿したとする点について)

一1(1) 右判示は、右<1>ないし<3>に共通して、商品先物取引において仮名借名名義を使用する方法によりその所得を隠匿したうえで各年度分の所得を申告しなかったことをもって、「偽りその他不正の行為」(所得税法二三八条一項)により課税を免れたとする。

(2) しかし、被告人が本件商品先物取引において仮名借名名義を使用したことは、所得を隠匿する目的でなされたものではないから、「偽りその他不正の行為」は存在せず、また、被告人には右名義の使用について課税を免れるための不正行為との認識はなかったから犯意を欠くというべきである。

2 すなわち、右判示には、右の点において、事実誤認または法令適用の誤りがある。

二1(一) 原判決の右認定にもかかわらず、被告人が仮名借名名義を用いたのは、もっぱら商品先物取引を有利に進めるためであったし、被告人には脱税目的であるとの認識は認められない。このことは以下の事実が明白に示すところである。

(二)(1) すなわち、被告人が商品先物取引において仮名借名を使用するようになったのは、平成元年になってからのことである。前前年の昭和六二年には金一億二、五〇〇万円余、前年の昭和六三年には金三、七〇〇万円もの巨額の損失を生じたところから、被告人は、これらの損失を取戻すことに全力を挙げた。そして、実名取引によるときは建玉制限を受けて利益を挙げることは出来ず、仕手筋に対抗することも出来ないとの判断から、平成元年になってから仮名借名名義による取引を行うようになったのである。右のような経緯からすると、仮名借名名義による取引は、何とかして商品取引で利益を挙げてそれまでの損失を取返そうとする被告人の一念で開始されたものであることは明らかである。いうまでもなく、仮名借名名義による取引だからといって確実に利益を挙げる見込があるわけではなく、取引をいくらかでも有利にしようとするものにすぎないから、仮名借名名義による取引は単に取引上の手段にすぎず、利益が挙った場合において課税を免れることをも意図していたはずはなく、脱税目的をも有していたとすることは相当ではない。

(2) 実際には、平成元年における商品取引は相当額の利益を生じたにもかかわらず、被告人がその所得を申告しなかったことは事実であるが、それは、たまたま利益を生じたことによる結果であって、少なくとも平成元年における仮名借名名義の使用に脱税目的が含まれていたとすることは出来ない。

平成二年以後の取引においても、仮名借名名義による取引は続けられた。それは、平成元年に仮名借名名義を用いたところ利益を挙げることが出来たことから、これを継続したものにすぎない。その後の仮名借名の使用においても、その目的は、それまでと同様であり、脱税目的が加わったと認めるべき証拠、事実は何ら認められない。したがって、平成二年以降における仮名借名名義による取引についても、右に述べたところと同様に、脱税目的があったとすることは出来ない。

2(一) しかるに、この点について、原判決は、「(仮名借名名義による取引が)戦術上の側面を有するとしても、そのことの故に脱税の目的が否定されるわけではない」と判示する。

右判示は、被告人による仮名借名取引はもともと脱税を目的とするものであると認められるから、それに商品取引上の戦術としての面が認められるとしても、本来の目的が否定される訳ではなく、右認定は覆らないとの判断を示したものである。

(二)(1) しかし、仮名借名を用いたからといって確実に利益が挙るわけではないことはいうまでもないことであるから、仮名借名名義の使用は、一般的には、そのほうが取引上戦術的に有利であるとの判断のみからなされるものである。実際に利益が生じたか、あるいは確実に利益が挙がることが予想されるに至ったときに、はじめてそれによる課税を免れることを考えるのが通例であり、利益が挙がるかどうかまったく判らないときに、あるかどうかも判らない課税を免れるためにわざわざ脱税手段を講ずる者はいないのである。

被告人が仮名借名名義による取引をなすにあたって利益が得られる見込があったと認めることは出来ず、被告人に課税を懸念すべき理由があったとは認められないから、本件仮名借名名義による取引は、単なる商品取引上の戦術にとどまり、これに脱税目的が含まれていたとすることは出来ない。右判示は、明らかに経験則に反する。

また、その後になって、脱税目的が加わったと認めるに足る証拠もないから、被告人による仮名借名取引は、いずれの年度分についても、脱税目的を含むものとすることは出来ない。

(2) 右判示は、仮名借名名義の取引は商品取引の戦術であるだけではなく、それには脱税の目的も含まれていた旨の被告人の「質問てん末書」及び供述調書における自供に基づくものと推認できる。

しかし、原審弁論において弁護人らが指摘したとおり、これらの供述調書等には、脱税目的を認めていないものや仮名借名名義の取引が商品取引上戦術の目的で始められたものであることをも述べたものもあり、単純に脱税目的があったことを認めるものはない。また、脱税目的をも有するものであることを認める供述についても、どの時点からいかなる事情で脱税目的を帯びるようになったかなどの点についてには何ら具体的な説明のないまま結論のみが記載されているものにすぎず、具体性のきわめて乏しい内容にとどまっている。すでに述べたとおり、仮名借名名義の使用は、具体的に利益が挙がらないかぎり、脱税の結果にはつながらないのであるから、利益が挙がることが見込まれる状況にないかぎり、仮名借名名義の使用に脱税目的が含まれているはずはない。したがって、仮名借名名義の使用には脱税目的も含まれていたとの供述があったとしても、現実に利益が挙がる見込があったと認められないかぎり、それは、仮名借名名義を使用していると利益が挙がった場合には脱税がやりやすいとの仮定的な一般論を認めたものにすぎず、これをもってそれが具体的に脱税目的をもったものであったと認定すべきではない。そして、各年度の商品取引において、被告人に具体的に利益が挙がる見込があったと認めることは出来ないうえに、仮名借名名義による取引に脱税目的が含まれていたことを認める被告人の供述についても、仮定的一般論以上の意味をもつものとは認められないから、これらの供述の存在を理由に脱税目的の存在を認定することは許されないというべきである。

(二)(1) また、原判決は、被告人は、利益は現金で受領し、仮名借名による場合には領収書はほとんど作成交付せず、取引会社との連絡などにおいては取引会社負担の電話を用いているなど、建玉制限、手の内の秘匿等の手段と関係のない場面でも名義の隠匿を図っていて、仮名借名の使用は取引上の戦術とばかりは言えない側面がある、と判示する。

しかし、右判示は、事実を誤認をしたうえに、具体的理由もなく被告人の行為が不当な意図をもってなされていたと曲解するものであり、とうてい肯認できない。

(2)(ア) 第一に、利益を現金で受領したとして、これをもって名義の隠匿を計ったものとするが、現金で受領したからといって、名義の隠匿が出来ることにはならない。これを支払った商品取引会社の記録上は支払の事実は明確になっていて、この点は隠匿できないからである。そして現金で受領することは金銭授受の基本的方法であり、それ自体は何ら不正とされるべきものではないことに留意すべきである。

したがって、利益を現金で受取ったことをもって、被告人が所得の隠匿を計ったとすることは出来ない。

(イ) 第二に、「仮名借名による場合には領収証はほとんど作成交付せず」と判示するが、これを認めるに足る証拠はなく、事実を誤認したものである。たとえ仮名借名であったとしても、商品取引会社が領収書なしに現金を交付することなどは常識的にもあるわけがないからである。当然のことながら、商品取引会社とすれば、顧客との金銭授受関係は明確にしておく必要があり、顧客に対して利益を現金で交付したときにその領収証を要求しないわけはなく、領収証が交付されないならば金銭を交付することはあり得ないのである。とりわけ、現金交付の場合には、その現金を交付する事務にあたった担当者にとっては、取引名義人の受領書がなければ、勤務先である商品取引会社から預かった現金を顧客に交付したことを商品取引会社に対して証明できないから、受領書の受領は決定的に重大な事項であり、領収書が引換えに交付されないかぎり、現金を交付することはとうていありえないことである。

右判示がいかなる証拠によったものかまったく不明であるが、たとえ右判示の根拠たり得べき何らかの証拠があったのだとしても、商品取引会社が取引による利益金を領収証なしで現金で交付することなどとうていあり得ないことは常識の領域に属するから、はじめから右証拠の信用性を否定すべきである。かりに、右証拠の信用性を直ちに否定できない理由があるとしても、商品取引会社が、実際に、被告人に対しては受領書がなくて現金を交付していたことが確実であることを認めるに足る証拠が提出されないかぎり、安易にかかる事実を認定すべきではない。右の事実の存在は、当然のことながら、何ら立証はされていないのであるから、原判決の右認定は明らかに経験則を無視し、常識的にあり得ない事実を認定したものというほかはない。

(ウ) 第三に、右判示は、取引会社との連絡等が取引会社費用負担の電話連絡であったことが認められるとして、これをもって名義の隠匿を図ったものとする。しかし、取引会社費用負担の電話連絡がいかなる意味で名義の隠匿につながるとするものか何ら説示がなく不明であるうえに、それが実際に名義の隠匿になると認めるに足る証拠を見出だすことができない。なお、被告人がコレクト・コールによる連絡を求めることに関する商品取引会社関係者の供述調書の記載においても、これらの関係者はこれらの事実を、単に、被告人が計算が細かいあるいは利害にうるさい顧客との印象を受けた理由ないし根拠として供述しているに過ぎず、名義の隠匿を目的とする行為との認識を示したものはなく、右認定の根拠たり得るようなものではない。

(三)(1) さらに、原判決は、平成三年、四年分の商品先物取引について、「右同様の態様の取引を認識しながらこれを継続していたのであり、」、この不申告について税理士の指導によるものであることも窺えない、と判示する。

しかし、右判示のうち「右同様の取引を認識しながら」との部分は、何を言わんとするものか理解できない。また、税理士指導によるものであることは窺えないとした点は、証拠を無視したものである。右判示は、弁護人らの主張の趣旨を理解しないままこれを排斥した疑いがある。

(2) 弁護人らのこの点についての主張は、要旨、以下のとおりである。

<1> 平成三年八月に税務調査がなされ、この際に、被告人は仮名借名名義によるものを含めて被告人による商品取引の全貌を調査担当者に説明した。その結果、被告人による仮名借名名義の取引の取引先、仮名借名義の詳細、その取引状況などは税務当局に完全に把握された。右調査の後においても、被告人は、仮名借名名義による取引を継続していたが、右の経緯から、仮名借名取引には脱税手段としての有効性はまったくなかった。また、被告人にしても、右状況のもとにおいては、仮名借名名義の使用にその取引状況を隠匿するものとしての有効性のないことを容易に理解できた。すなわち、右税務調査以後における仮名借名名義による取引には、脱税手段としての現実的意味はなかったから、客観的にも、また、被告人の認識としても仮名借名名義の使用に脱税目的が含まれていたとすることは出来ない。

したがって、被告人が、平成三年および四年に仮名借名名義によるものを含む商品取引によって利益を挙げながら、これを申告しなかったことをもって、「偽りその他不正の行為」により税を免れたとすることは出来ず、その故意があったとすることもできないというべきである。

<2> また、これらの年度分の所得を申告しなかったのは、以下の事情によるものである。

すなわち、被告人としては、平成三年八月頃ころに税務調査がなされたことからも、その頃には、申告の必要性は理解した。ところが、右調査において、税務当局は、当初は、商品取引は被告人によるものではなく被告人会社によるものとの見解を抱き、被告人会社による法人税の不申告としての調査をすすめた。被告人は、税務当局が右見解のもとに調査をすすめることについては何ら異議を申立てることなく、その結論を待ちながらも、従前どおり、仮名借名名義によるものを含む商品先物取引を行っていた。しかし、右両年度の申告期限までに、当局から明確な見解が示されなかったため、税理士の意見をも求めたうえで、この両年分の申告を留保していたのである。

(3)(ア) しかるに、右判示は、単に、被告人が右両年度の所得税申告をしなかったことを指摘し、それが税理士の指導によるものであることは窺えないとした。

しかし、税務当局は、平成五年八月の査察の時点に至っても、なお、商品取引による損益は、被告人ではなく、被告人会社に帰属するとの見解を抱いていたことが、査察の際に作成された被告人に対する平成五年八月二六日付「質問てん末書」の記載により明らかである。右「質問てん末書」は、被告人会社に対する法人税法違反嫌疑事件に関するものとして作成されていることからもこのことは明らかであるが、さらに、その供述内容には「(被告人会社の平成二年ないし四年の法人税の確定申告書の内容は正しいものではなく)平成三年三月期、平成四年三月期については、商品取引における売買益を申告しませんでした。」(問六)との記載、「これら商品取引はすべて法人つまりカワイ住宅のものです。なぜならカワイ住宅で不正に得た資金を投入していますので、これら商品取引で得た利益はもちろん会社の利益となります。」(問一六)との記載があることからも、この点に疑問の余地はない。税務当局は、この時期においては、明らかに、商品取引による売買益は被告人会社に帰属するものと理解していたのである。ところが、その後、間もなくして、その見解は右取引による収益は、被告人に帰属するとするものに変更された。このことは、同年九月一八日付「質問てん末書」が被告人に関する所得税法違反嫌疑事件に関して作成されていて、内容的にも、「(所得税についての査察調査とされているが、平成五年八月に被告人会社に対する法人税法違反嫌疑による査察がなされているから、被告人としては)心当たりがない。」との記載(問四)、「(商品取引は)私、個人の取引です。」との記載(問一三)があることから明らかである。

これらの事情の下で、被告人としては、平成四年三月になすべき申告において平成三年分所得として商品先物取引による利益を申告しなければならないものであることを充分に理解していたが、被告人または被告人会社のいずれのものとして申告するかについて疑問を抱いたのは当然のことである。税務当局の見解が分かれたことについて被告人が迷うのはやむを得ない。被告人は、このため、右税務調査に立会った顧問税理士である山下税理士に対していずれの所得として申告すべきかについて指導を求めた。これに対して、同税理士からは、調査結果に基づいて、いずれ税務当局の見解が示されるから、しばらく申告を留保したら良いとの見解が示されたため、申告をしないでいるうちに査察が開始されて申告の機会を失ったのである。この点は、田口証人及び被告人の供述するところであり、これを疑うべき事実も証拠もない。

(イ) しかるに、右判示は、被告人は従来と同様の態様の取引を認識しながらこれを継続していたこと及び同税理士の指導の事実は窺われないことを指摘して右弁護人の主張を排斥した。

しかし、税務調査に対して、仮名借名を含む状況を説明したことにより、その全貌が税務当局に把握された後においては、仮名借名名義による取引は脱税の手段としての有効性を失ったことは明らかであるから、それ以降においては、仮名借名名義による取引は、脱税目的をもったものとすることは出来ない。

(4) また、被告人が同税理士に指導を求めたことについては、田口証人および被告人が原審において供述するところであり、右に述べた状況のもとにおいて、被告人が顧問税理士に対してこの点についての見解を求めること及びこれに対して同税理士が被告人の供述のとおりの回答をすることは、きわめて自然なことであり、通常あり得べきことをも考慮すると、右供述には十分の信用性が認められ、この点を疑問とする反対証拠もない。

右判示は事実を誤認したものである。

第二点(第三者名義の預金口座に入金する方法によりその所得を隠匿したとする点について)

一1(1) 右判示は、右<1>ないし<3>に共通して、商品先物取引による利益を第三者名義の預金口座に入金する方法によりその所得を隠匿したうえで各年度分の所得を申告しなかったことをもって、「偽りその他不正の行為」により課税を免れたものとする。

(2) しかし、被告人が商品先物取引による利益を第三者名義の預金口座に入金したことは所得を隠匿する目的をもってなされたものではない。また、被告人には、右入金について課税を免れるための不正行為との認識はなかったから、犯意を欠くというべきである。

2 すなわち、右判示には、右の点において事実誤認または法令適用の誤りがある。

二1 被告人が商品先物取引による利益を第三者名義の預金口座に入金したことは事実であり、利益の一部分を被告人および被告人の家族などを含む第三者名義の郵便定額貯金口座に入金した。

2(1) しかし、右口座を設定しこれに入金したのは所得隠匿の目的によるものではない。

それは、郵便定額口座は、金利が良いとともに、商品取引の委託金などを商品取引会社に差入れようとするときに、担当郵便局員が適宜これらを解約して持参してくれるなど機動的に対応してくれるという利点があったことによる。しかるに、郵便定額貯金については預金限度額を一人あたり金一、〇〇〇万円とする制限があって、それ以上の金額を同一名義で預金することができないために、右制限を免れる必要から、郵便局員の協力を得て、仮名借名の預金口座を多数設定したのである。

これらの預金口座は、もっぱら右の目的で設定されたものであって、所得隠匿の目的を有したものではないことは、その名義人と商品先物取引における仮名借名名義との間に何らの関連性もないこと、田口稔昌、川井源一名義の預金などのようにその使用に委ねる意思でその通帳を名義人に交付したものもあることなどの事実が示すところでもある。

右判示は、第三者名義の預金口座に入金することによって所得を隠匿したとするが、被告人は右目的をもって右口座に入金したわけではなく、また、所得隠匿の意思は有していなかった。右判示は事実を誤認し、法令の適用を誤ったものというべきである。

(2) また、すでに述べたとおり、平成三年八月に税務調査がなされ、被告人が商品先物取引による収益についても、仮名借名名義による取引を含めて、その詳細を調査官に説明した。そして、その後において従前と同様の態様で商品先物取引を継続していた。したがって平成三年、四年分の取引による所得については、商品取引会社に照会すれば容易に判明する状況になった。したがって、被告人が第三者名義の預金口座にその利益を入金したとしても何ら所得を隠匿する意味を有しないことになった。従って、平成三年、四年分の利益を第三者名義の預金に入金したことは所得を隠匿する意味をもたないから、これをもって所得の隠匿を図ったとすることは出来ないし、右入金には課税を免れるための不正行為との認識がなかったから犯意を欠くといわなければならない。

3 しかるに、右判示は、この点につき何ら説示することなく、第三者名義の預金口座に入金したことをもって、所得を隠匿する目的でなされたものとしているのであり、とうてい肯認することが出来ない。

第三章 量刑について

第一 原判決の要旨

原判決は、被告人を懲役二年及び罰金七、〇〇〇万円に処し、右懲役刑の執行を猶予しなかった。

第二 控訴理由

原判決中、被告人に対する原判決の量刑は重きにすぎ不当であるから、これを破棄すべきである。

一1 原判決が「量刑の理由」(七一頁)において判示するところによれば、原審は、量刑判断の基礎となるべき事実の一部を誤認ないし誤解したうえ、その事実の法的意味を適確に理解せずに量刑判断をしたと疑うべき充分な理由がある。

2 また、被告人に関するその余の量刑事情をも併せ考慮したとき、実刑は重きにすぎ不当である。

二1(一)(1) 右判示は、法人税法違反の公訴事実について「その不正行為の態様は、不動産の購入売却を、真実は被告人会社による本件土地の譲渡であるのに、土地建物の譲渡とした上、土地部分は中間省略登記によるなど、その売主が被告人会社であることを隠蔽し、建物部分についてはその土地利用権を付加させて、親族の名義を用いて取得した上いわゆるダミー会社を介して売却し、利益がないかのように仮装するというものであり、そのため、種々の実態に沿わない契約書等関係書類を作成する」などしており、「巧妙かつ計画的である。」との量刑理由を示した。

(2) 右判示によれば、原判決は、本件各土地の譲渡は被告人会社によるものであり、売買契約書の内容をはじめとするすべての法律関係はこのことを隠蔽するために仮装されたもの、と判断したことが明らかである。

(二) しかし、ダミー会社を介在させた点を除いて、右判断は以下に述べるとおり、明らかに誤ったものであり、その誤りは、不動産取引の実態、さらには、不動産取引による所得に対する課税関係についての裁判所の誤った理解に由来するもののように思われる。

2(一) 右判示は、本件土地に関する取引の内容は、真実は、以下のようなものであったと解するものである。すなわち、本件土地は、本件相続人らの共有するものであったが、被告人会社は、同土地上の北島事務所およびその敷地に対する借地権を競売手続により取得し、さらに北島事務所およびその敷地に対する借地権を田口稔昌、川井源一名義で取得したうえで、本件相続人間の協議がまとまった後に、千葉瓦斯に対してこれを本件相続人らから買取ったうえで更地で売渡したものである、と。

右判示によれば、千葉瓦斯に売却するまでに、右各借地権は消滅させられただけでなく、被告人会社が本件各土地を更地として本件相続人らから取得していたことになる。しかし、右各借地権消滅の事実および本件各土地取得の事実については何ら説示がない。

(二)(1) このうち、北島事務所の借地権については、それはそもそも被告人会社が取得したものであるから、被告人会社がその敷地に対する借地権を放棄することは自らの判断により可能であり、この点について説示がなくてもさしたる問題ではないということもできる。また、北島居宅の借地権については、被告人会社が田口稔昌、川井源一名義を使用して取得したものであり、その譲渡による収益は被告人会社に帰属するとの判断が示されているから、その当否は、すでに述べたとおり、極めて疑問であるにしても、右判示の判断それ自体は明確であり、右判断によれば、北島居宅の借地権の消滅についての説示の地建物の譲渡とした上、土地部分は中間省略登記によるなどその売主が被告人会社であることを隠蔽し、建物部分についてはその土地利用権を付加させた」とし、「巧妙かつ計画的」であると判示するところも、原審が不動産取引の実情を全然理解していないことを示すものであり、とうてい肯認できない。

(2)(ア) 第一に、「真実は、被告人会社による本件土地の譲渡である」というが、実際になされた取引は、すでに述べたとおり、法律上の権利者がそれぞれ千葉瓦斯に対してその権利を譲渡したことを示す契約書が作成されてその代金が支払われているのであるから、これこそが法律関係における「真実」であり、他に「真実」を認める余地はない。

右判示は、千葉瓦斯が本件土地を更地として取得しようとしたものであり、被告人会社が更地を売却したものとして、その代金は被告人会社に帰属したと判断するもののようであるが、右の結果を実現するための法律関係はさまざまであり得る。すなわち、千葉瓦斯が本件各土地を更地として取得するためには本件土地上にある、北島事務所、北島居宅等を取壊し、その敷地に対する借地権を消滅させなければならない。また、本件各土地は本件相続人らの共有するものであるから、同人らから所有権の譲渡を受けなければならない。このためには、<1>本件各土地の所有者が建物の所有者の承諾を得て建物を取壊し、さらに借地契約を解除して借地権を消滅させてから、千葉瓦斯に更地として売却するという方法がある(なお、この場合には、右売却前に、建物の所有権および更地に対する借地権を消滅させることになるから、本件相続人らが建物等の所有者らに対して建物代金および借地権消滅の対価を支払うことになる。)。しかし、<2>本件各土地の所有者である相続人らが借地権の負担のある土地の所有権(底地権)を千葉瓦斯に譲渡するとともに、建物の敷地に対する借地権を有するものがこれらを同社に譲渡することによって、同社が借地権の負担のない土地(すなわち、更地)を取得させるのもひとつの方法である(この場合、建物をいつ誰が取壊したとしても、この方法によったことを否定する理由にはならない。建物所有権を有する者には任意にこれを取壊す権利があるし取壊されても契約が解除されないかぎり借地権が消滅することはないからである。)。また、<3>建物およびその敷地に対する借地権を有する者が本件各土地の所有権を本件相続人らから取得したうえで、これを同社に取得させるのもひとつの方法である。

すでに述べたとおり、右判示は本件取引は<3>であるとの見解をとり、弁護人らは右<2>である旨を主張しているのであるが、契約書、領収書等は右<2>によるものであることを示している。しかるに、右判示はあえて右<3>によるものであるとしたうえ、右<3>こそが「真実」であるから、契約書、領収書等は右<3>を隠蔽するための工作であり「巧妙かつ計画的」であるとみなし、右判示に及んだのである。しかし、右<3>こそが「真実」であるとの右判示の趣旨はそれ自体がとうてい理解できない。右<1>ないし<3>のいずれによるとしても、千葉瓦斯は本件各土地を更地として取得できるし、どの方法によるも契約自由の原則上何ら問題にならず、どれであっても良いのであり、右<3>でなければならないとすべき何らの理由もない。契約により定められたところこそ、取引の「真実」であるとすべきである。課税は、法人税法の定めるところによって、約定の法律関係に従えば収益の帰属することになる者に対してなされるのであり、その反対に課税関係に合致するように法律関係を約定しなければならない理由はない。

右判示は、契約関係と課税との関係を理解しないものというべきである。少なくとも、本件取引の契約関係は、千葉瓦斯に対して本件各土地の完全な所有権を譲渡するために必要かつ適切なものであり、それ以前における本件各土地に対する権利関係の内容を考慮すれば、もっとも普通に採用される内容のものであって、これをもって真実を隠蔽する意思を有するものとすることのできないことは明確である。

(イ) 第二に、中間省略登記は、登記が権利の移転の経過を適確に反映させたものである必要が認められない場合に、登記登録税や登記手数料を節減するために、商慣習上極めて日常的になされているところであって、これをもって、被告人会社が売主であることを隠蔽する目的でなされたものと解すべきものではない。

(ウ) 第三に、とりわけ問題であるのは「建物部分についてはその土地利用権を付加させた」と判示している部分である。すでにくり返し述べているとおり、北島事務所、北島居宅の敷地にはもともと借地権、すなわち土地利用権が設定されていたのであり、これらは事後的に付加されたものではない。

右判示がいかなる証拠をもって土地利用権を「付加」したとするものかまったく理解できない。なお、千葉瓦斯に対しては更地として引渡すことが取引条件とされ、代金が支払われた一〇月二五日にはすでに建物は取壊されていたが、だからといって借地権はそれにより消滅していたことにはならない。借地権の設定されている土地上の建物が取壊されたとしても、借地権は借地契約が解除するまで消滅するものではなく、その後も継続するのである。いうまでもなく、借地権の経済的価値は土地価格の六割以上に及ぶとされている(相続税法による「路線価」の実情を見よ。)のであり、もともと底地権よりも大きな価値を有するとして取扱われている権利である。しかし、実際には、その換価は簡単ではなく、土地所有者が土地所有権を第三者に譲渡しようとする場合などにはじめて換価の可能性が生ずるのである。被告人、被告人会社らは借地権の設定されている北島事務所、北島居宅を取得したところ、本件相続人らが本件土地全体を第三者に対して譲渡することになったため、借地権相当額の代価を取得することとなり、多大な利益を取得することになったのである。右判示は借地権の何たるかをまったく理解できないでいることを露呈したものである。

(3)(ア) 本件各土地の取引につき作成された契約書等のうち真実に反するのは、北島事務所および北島居宅への譲渡にあたり、これを大東食品に売却し、大東食品が千葉瓦斯に売却したかのごとく仮装した売買契約書等である。しかし、それ以外の点は、当事者間に締結された契約関係そのものであり、真実の取引を仮装したものでもなく、その意思のもとになされたものでもない。

(イ) 右判示は、証拠上認められる範囲を超えて、被告人が本件各土地の取引において所得を隠匿するために、契約等の書類の内容を仮装したとするものであり、とうてい肯認することが出来ない。

三(1) 所得税違反公訴事実について判示する量刑理由のなかには、<1>平成三年、四年分所得の不申告が、平成二年分以前の所得について平成三年夏になされた税務調査後のものであり、右調査において、被告人は担当者に対して、仮名借名名義によるものを含めた商品取引会社との取引の実情およびこれによる利益が第三者名義を含めた郵便定額貯金などの預貯金に入金されている事実などを説明しているから、その後における仮名借名の使用には脱税の目的は含まれておらず、有効性もないものであることおよび<2>平成三年、四年分について申告しなかったのは、商品取引による収益の帰属者が被告人会社か被告人かについて税務当局が明確に説示しなかったことから、その結論が示されてから申告する意思でこれを留保していたものにすぎないことについての言及がなく、この点を考慮しなかったことを示している。

(2) しかし、右各事実は、平成三年、四年分の所得税不申告については、積極的あるいは意図的になされたものではないことを示すものとして、量刑上被告人に有利に考慮されるべき重要な事情である。

四 前項に述べたことのほか、弁護人が弁論で指摘した被告人に有利な事情をも考慮すれば、原判決の量刑は不当に重いというべきである。

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